令和四年十一月二十九日、京都府長岡京市にある長岡天満宮に於て、第二十三回文芸祭が挙行された。本年もコロナ禍の影響で、神職、和歌と俳句の選者、入賞者のみの参列となったが、本殿に於て祭祀が粛々と執り行われた。和歌の部の選者吟、俳句の部の選者詠に続き、それぞれの賞の入選作品が献詠された。
俳句の部 選者詠
散りてなお梅の小枝にある余香 塩田里美
各賞の入選句並びに句評
長岡天満宮賞
夕映えて芒野風の綾美(うま)し 平沢寥茶
芒は、秋の野や堤に群生し、細長い葉と白い地味な花穂が一体となって風に吹かれる姿は、全身で物寂しさを体現しているかのようである。一方、夕映えの光の中で、風に靡く芒野は秋風の意のままに美しく輝く。それを「風の綾」と簡素に表現した秀句である。
長岡天満宮奉賛会賞
秋うらら晩節の歩のゆるぎなし 大川喜美尾
冬に向かっていくことを忘れさせるようなうららかな秋日和、晩年を迎えられた方の健固な歩調を詠むと同時に、晩節を汚すことなくしっかりと人生を歩んでいきたいという作者の意志が感じられる力強い句である。
京都新聞賞
秋空に地球の唸り吐く火口 湊一葉
秋空にむかって、火山の噴火で溶岩等を噴き上げる轟音を「地球の唸り」と感じ、火口から勢いよく噴き上げている様子を吐き出していると感じた作者の感受性は素晴らしい。自然の一瞬の出来事を的確に表現した壮大な句である。
阪急電鉄賞
稲穂波豪華列車の駆け抜ける 津村四葩
最近は、各地の鉄道路線で豪華列車が企画され、車体や車内の設いが耳目を集め、人気を博している。窓外では、開通を祝って手を振る人も居て楽しい。列車が高速で通り抜ける時、勢いよく稲穂が揺れて、波打っているように見える光景は、爽快である。
文芸祭賞
秋の色いよよ深まる夫婦句碑 宮崎相月
一般的に「秋の色」と言えば。紅葉や黄葉の美しい光景を連想されるが、俳句では、深まりゆく秋の物寂しさを宿す気配を表す季語でもある。作者は、秋が一層深まって夫婦句碑に漂う物悲しい情趣を感じとって詠んだ句だと思われる。夫婦句碑に対する深い想いが滲んでいる。